東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1769号 判決
なおまた、控訴人が昭和二三年一〇月二三日した本件建物の所有権移転登記は前記のとおり同年二月二八日附売買によるものであつて、この登記は右のとおり控訴人が代物弁済によりこの建物を取得したこととその登記原因においてくいちがいがあり、不当のようであるが、本件貸借にあたつては、前記のように代物弁済の特約をしたのみならず、控訴人の債権確保のために、貸借の日である昭和二三年二月二八日控訴人のため本件建物につき売買の予約にもとずく所有権移転請求権保全の仮登記を経てあることは当事者間に争のない事実であり、これは同時に、代物弁済特約の効力発生によつて被控訴人が建物所有権を取得した場合に債権者たる控訴人の権利満足を実質的にも確保するために実は、代物弁済の特約にもとずく取得を、登記簿上は前記売買予約の仮登記にたいする本登記となるようにして、債権者たる被控訴人の登記の順位を保留するために、売買予約をしたことにしてその仮登記をしておいたものであることは、一般社会における売買予約並にそれによる仮登記の制度の利用の実情と本件における辯論の全趣旨とから明かである。したがつて、前段認定のとおり控訴人が代物弁済によつて所有権を取得した以上、前記のごとく昭和二三年二月二八日附売買を登記原因として取得登記をすることは、むしろ控訴人の本件貸借及びこれに附随する契約にもとずく権利であるといわなければならない。したがつて、本件登記が代物弁済を登記原因としてされていないことによつて被控訴人がその抹消を請求し得べきものではない。
被控訴人は控訴人が本件建物を本件金十一万円の貸金の代物辯済として取得したことは民法第一条にいう信義則に違反し、かつ権利の濫用であるというけれども、原審における被控訴人本人の供述(第一回)によれば、被控訴人は任意に本件建物につき代物辯済の特約をしたことをうかがいうべく、本件には控訴人を代理した福島芳彦がなんらか優越せる地位を利用して被控訴人にたいし右特約を不当に強制したようなことは少しもあらわれていない。被控訴人は自由な立場で考慮し判断した結果にもとずき、かかる特約をしたものと認めるのほかなく、たとえこの建物の価格が本件元利金額をはるかに超え、被控訴人がこの建物の所有権を失うことは経済上大きな不利益をこうむるものであつたにせよ、控訴人がこれを代物弁済として取得することはなんら民法第一条にいう信義則にふれるものでもなく、もとより権利の濫用ともいいがたい、被控訴人のこの点の主張も理由のないことは明らかである。